エリック、君の事をどう話したらいいのか、いまだに僕にはわからない。
友人だったわけでもない、恋人だったわけでもない、それなのに君は、ほんの数週間で僕の心に消えない思い出と、傷跡を残していった。
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エリック・バーレルと名乗る青年が、僕たちの住む村を訪れたのは夏季休暇の真っ最中だった。彼は大学生で、スケッチをしながら田舎を旅しているのだと言った。
初めて森の道からこちらに向ってくるエリックを見つけたのは僕だった。親友のカナンは自分だといって譲らなかったが。だれかが来る気配を感じて、緑に包まれた森を見つめていた僕の目に、近づいてくる青年の姿がだんだん大きくなってきたときのことははっきり覚えている。やせて背の高い彼は、ゆったりと歩きながら僕たちのほうに微笑んで見せた。
それは、初めての土地を旅することに慣れた人の、相手の警戒心をなくすための笑顔だった。そうして一目で人をとりこにする魅力に溢れた笑顔だった。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
僕たちはどぎまぎしながら応えた。
ラフな服装をしていたエリックだったが、垢抜けた都会のにおいがした。田舎のがきどもでさえ。その洗練されたものごしと、柔らかな仕草に気後れしたのだ。
「この村にどこか泊まるところはないでしょうか?」
エリックは、黒い猫を膝に抱えて、家の前で日向ぼっこしていたアドルばあさんにきいた。耳の遠くなったばあさんは、にこにこ頷いて、握手をしようと手を差し出したので、目を覚ました黒猫が、あっという間に膝から飛び降りて、森のほうへと走っていった。
もちろん、アドルばあさんはエリックに何を言われたかわからずに、彼の手を握って何度も頭を下げるばかりだった。
「宿は、な……ありませんよ」
小さな村だったし、めったに他の場所から人が来ることはなかったから、僕はすぐにそう答えた。
「そう、どこかの家に泊めてもらうことはできないだろうか?」
「僕の家だったら、大丈夫です」
僕の前に体を乗り出すようにしてカナンが言ったとき、僕はがっかりした。
僕もそう言いたかったのだ。自分の家に泊まって欲しい。この優しげな旅人をもっと見ていたかった。
僕はカナンをにらみつけたが、カナンは知らん顔していた。
エリックはカナンを見、僕を見た。それから、ちょっと躊躇うように口を開いた。
「ありがとう。連れて行ってくれる?」
そう彼がカナンに答えたのをきいて僕は悲しくなった。けれども、僕は父親と二人で暮らしていたから、この旅人をもてなしてやることもできないとすぐに気づいて余計に悲しくなった。大抵父か僕が食事の支度をしていたが、食べられればいいという程度のものばかりだった。
旅人は歩きながら、カナンと僕の名前を聞いた。自分は大学生で、森を抜けたところの岩山の絵を描きたいのだと話してくれた。彼の名前がエリック・バーレルだと知ったのもそのときだった。僕はもう無駄だと思いながらも、なんとかこの旅人が家に来てくれないだろうかと、そればかり考えていた。
自分のことを話したあと、エリックは僕らの名前を聞いた。
「クロウ、君の家もこっちのほうなの?」
エリックが聞いた。僕は首を振った。カナンの家とは反対方向だったけれど、この人と離れがたくて、ついてきてしまったのだ。もっとも小さな村だから大した距離でもなかったが。帰ろうとしたとき、父がこちらへと歩いてくるのに気づいた。
「お父さん!」
大またで急ぎ足でこちらに向ってくる父は僕を見つけると笑った。日に焼けた精悍な顔つきの父は、息子の自分から見てもどぎまぎするほどカッコよかった。質素な作業着の下の、綺麗に整った筋肉がついた逞しい肉体も憧れだった。自分の細っこい身体を僕はもてあましていたのだ。
近くまで来ると父は、エリックを不思議そうに見た。エリックはまたあの魅力的な笑顔を浮かべて自己紹介をした。
「岩山に行くのか? よかったら、明日案内するが。不慣れな人間がよく迷う場所だ。」
父の言葉に僕は胸が躍った。またエリックに会える。僕も一緒に岩山に行こう。うまくすれば僕の家に泊まってくれるかもしれない。もっと話ができるかもしれない。そんな様々な思いが次々に浮かんだ。エリックは嬉しそうに、案内をして欲しいと言った。
小さな刺激のない村では旅人は珍しく、ほかの場所の話を聞けるチャンスだった。けれども、それだけではない魅力を僕はエリックに感じていた。
翌日、カナンに連れられてエリックは僕の家に来た。僕とカナンも二人について岩山に向った。他の十代の友人たちと村の広場で遊んだりするより、今はこの旅人と一緒にいて、外の世界の話を聞いたり、彼の描く絵を見たいという気持ちのほうが強かった。
たぶん、カナンも同じだったのだと思う。
森を抜けていきながら、父は、野性の木苺の実をとってエリックに渡した。宝石のように輝く赤い実をエリックは嬉しそうに太陽に透かした。それから、口に入れると、
「おいしい」
と微笑んだ。僕もカナンも嬉しくなって、見つけるたびにエリックのところに運んだ。ひんやりとした森のなかは緑の苔が柔らかな絨毯のように敷き詰められていて、ところどころに残る水滴が輝いていた。可愛らしく伸び始めた蔦の小さな葉っぱが柔らかく、木々を縁取っていた。
その一つ一つにエリックは目を輝かせていた。
森を抜けると、切り立った岩山が見えてきた。それは巨大な一枚岩でできていて、灰色の岩肌はざらざらしていた。一見平らに見える面には亀裂やひっかかりがいくつもあった。慣れている人間はどこに掴まり、どこに足をかければ岩山を登っていけるのかわかっていた。地図のように、進む方向を頭に入れながら、そこを登っていくのだ。
もちろん父も僕も、カナンも慣れていた。エリックが父の後を上っていき、僕とカナンがその後に続いた。父は、場合によっては崩れやすくもろくなる岩を確かめながら慎重に進んでいた。
僕は、もしも、彼が上るのに、苦労したり滑り落ちそうになることがあったら、手を貸すつもりで足を踏ん張って上っていた。けれどもそんなことはなく、華奢に見える人は思いがけないほど器用に岩山を上っていった。父が彼を気遣いながら、いつもよりゆっくり登っていたせいもある。
岩山の上に登りきったときには太陽は真上に来ていた。
「慣れれば、もっと早く登れるようになる。」
父の言い方はぶっきらぼうだったが、僕は父がこんなに話すのをきいたことがなかったので驚いていた。エリックの柔らかな笑顔が父の心も惹き付けたのだと思った。
僕と父は昼食のためのサンドイッチを用意していた。僕たちは平らな岩の上に座って、それを食べた。
目に入る一帯には、登ってきた岩よりもっと赤みがかった岩の連なりが奇妙な景観を作っていて、エリックはすぐに夢中になった。スケッチブックを取り出すと、色鉛筆でその景色を描き始めたのだ。
僕らは黙ってそれを見ていた。真っ白なスケッチブックのうえに、さまざまな色が塗り重ねられた、赤や緑や黄色の岩の色には見えない色鉛筆の色が、重なるにつれて、立体感を持ち、次第に本物の色に近づいていくようすに僕は夢中になった。それはとても素朴なのに美しいものだった。
夢中でスケッチしているエリックを見ている僕らはなんとなく落ち着かない気分だった。あまりじっと見ているのもいけないような気がするのに、真剣なエリックの表情から目を離せなかったのだ。エリックは僕らがじっと見ていることにも気づいていないようだった。
一時間ほどでエリックは一枚の絵を描き終えた。それからはっとしたように、僕たちの顔を見た。
「すいません、つい夢中になってしまって」
僕たちは、顔を見合わせて笑った。エリックという青年の魅力に完全に取り付かれていたのかもしれない。邪魔をせずに彼のそばにいられたことでほっとしていた。
岩山を降りると父は、今夜泊まりにこないかと持ちかけた。妻は他界していてたいしたおもてなしはできないが、と父が言うと、エリックは、自分が料理ができるからかまわないと言った。僕の胸は躍った。エリックが来てくれる。
(略)
「触りたい……」
そう言うとセナは笑った。僕の体をひっくり返して、僕にまたがるようにしてきた。
「どこに」
「腕」
セナの腕が僕の口元に差し出される。僕は舌を伸ばして、張り詰めた筋肉を、滑らかな肌を舐めた。けれど、もっと触れたいところがあった。
「咥えさせて……」
僕は懇願した。でも自分から望んでではなく、無理やりのようにそうされたかった。
「ひどくして……」
その言葉でセナは僕の気持ちを悟ったようだった。
「かわいそうに……けど、他の人の前でそんなこと言っちゃだめだよ。本当にひどい目にあうことになる。」
セナの言っていることはわかっていた。僕が求めているのは、ただのプレイだった。それ以上のことをされたいわけではない。
人から見られることを切望しても、レイプされたり、輪姦されたりしたいわけではない。脅されたり、本物の暴力をふるわれたいわけでもない。
セナの言葉に僕は頷き涙をながした。
セナのペニスが口元に突きつけられ、乱暴に僕の口を犯した。僕はそれに舌を絡め、飲み込もうとするように、喉の奥まで受け入れた。セナが激しくそれを出し入れする。喉の奥に押し込まれるとえづきそうになりながら、僕は必死でそれに奉仕した。そんな自分に酔った。
エリックとのことで、すでに目覚めかけていた自分の被虐性が、露になった瞬間だった。髪を掴まれ、一方的な要求に従わせるようでいて、セナは時々、思いがけない優しさで僕に触れた。けれど彼の行為は優しいと同時に残酷でもあった。あふれ出しそうな欲求を抱えた体は、煽られ、達する寸前で放り出された。あごがはずれそうなほど、僕の口のなかで膨張したものをセナが、僕の後ろにあてがったとき、僕は喜びで叫びだしそうだった。
からからに乾いた砂漠で、水を与えられたようなものだった。だが、セナが僕のペニスに巻きつけられた包帯をはずさずに行為に及んだとき、僕は失望と、もっと先にある快感の予感に体をふるわせた。みっしりと密度のあるものが僕を押し開き、暴いてきた。乱暴ではなかったが、容赦のない一突きでセナは僕を支配した。
「ああああ!」
僕は声を限りに叫んでいた。どうにかなってしまいそうだったのだ。熱が、からだの中で荒れ狂う熱が、あふれ出した。僕は腰をふり頂点を目指した。
決して到達することのできない、幻のような頂点を目指した。もどかしさに泣き出しそうになると、セナの手が、包帯からはみ出した僕のペニスの先に爪を立てるようにした。
痛みと同時にするどい快感がつま先まで痺れさせた。
「いやあ、あああ!」
僕は叫び、まったく射精することなく達した。力を入れすぎたふくらはぎが攣ったように痛かった。
「こういうのは初めて?」
こくこくと頷く僕の目から流れ出す涙をセナは拭ってくれた。
「今度はちゃんと達かせてほしい? それとももっと我慢できる?」
セナが聞いた。イカせてほしかった。けれども、もっと我慢させられる自分を見たかった。
「我慢する」
セナは笑った。そうして優しく包帯に包まれた僕のペニスを撫ぜた。
ゆっくりと包帯をほどく。目を見張る僕にセナはもう一度笑って見せた。
「君はこれなしで我慢するんだ。いいね」
僕は頷いた。
(以下略)